2025/11/05
一人暮らし高齢者の見守り―離れて暮らす親を支える方法
目次
はじめに
「最近、母からの電話が減ったけど、大丈夫だろうか」「父が一人で生活しているが、何かあったときにすぐ駆けつけられない」――このような不安を抱える方は少なくありません。
総務省の統計によると、65歳以上の一人暮らし高齢者は年々増加しており、今後もこの傾向は続くと予想されています。離れて暮らす親の健康や安全を心配しながらも、仕事や自分の家庭の事情で頻繁に会いに行けないという状況は、多くの人が直面する現実です。
本記事では、介護福祉の専門家の知見をもとに、離れて暮らす親を適切に見守り、安心して暮らしてもらうための具体的な方法をご紹介します。見守りサービスの選び方から、地域の支援体制の活用法、そして万が一のときの備えまで、実践的な情報をお届けします。
増加する一人暮らし高齢者の現状

一人暮らし高齢者を取り巻く環境
日本の高齢化は急速に進んでおり、それに伴い一人暮らしの高齢者も増加しています。内閣府の高齢社会白書によれば、65歳以上の一人暮らし高齢者は男女ともに増加傾向にあり、特に75歳以上の後期高齢者の単独世帯が顕著に増えています。
この背景には、核家族化の進行、配偶者との死別、子どもとの同居を望まない価値観の変化などがあります。多くの高齢者は「住み慣れた地域で暮らし続けたい」と考える一方で、子ども世代は就職や結婚で実家を離れているケースが一般的です。
一人暮らし高齢者が直面するリスク
一人暮らしの高齢者が直面する主なリスクには以下のようなものがあります。
- 転倒・事故
自宅内での転倒や、入浴中の事故など、誰にも気づかれずに時間が経過するリスク - 体調の急変
脳梗塞や心筋梗塞など、突然の発症に対応が遅れる可能性 - 認知機能の低下
物忘れの増加、判断力の低下などに周囲が気づきにくい - 孤立・孤独
社会的なつながりが減り、心身の健康に影響 - 詐欺被害
特殊詐欺やリフォーム詐欺などのターゲットになりやすい - 栄養不足
食事の準備が面倒になり、栄養バランスが偏る
これらのリスクを最小限に抑えるためには、離れて暮らす家族による適切な見守りと、地域社会のサポート体制の活用が不可欠です。
離れて暮らす親の変化に気づくチェックポイント

親の異変にいち早く気づくことは、深刻な事態を防ぐ第一歩です。以下のチェックポイントを参考に、定期的に確認しましょう。
電話やビデオ通話での会話から気づくサイン
- 同じ話を何度も繰り返す
- 会話の内容が以前より浅くなった
- 日付や曜日を間違える
- 言葉が出てこない様子がある
- 声のトーンが暗い、元気がない
- 電話に出るのが遅くなった
帰省時に確認すべきポイント
家の中の状態
- 郵便物が溜まっている
- 冷蔵庫の中に賞味期限切れの食品が多い
- 家の中が以前より散らかっている
- 掃除が行き届いていない
- 洗濯物が溜まっている
身体的な変化
- 体重が大きく減った(または増えた)
- 歩き方がおぼつかない
- 以前よりも動作が遅くなった
- 薬の飲み忘れがある
- 身だしなみへの関心が薄れている
生活習慣の変化
- 外出する頻度が減った
- 趣味をやめてしまった
- 近所付き合いが減った
- 食事を作らなくなった
- 昼夜逆転している
これらのサインは、認知機能の低下や身体機能の衰え、うつ状態などを示している可能性があります。一つだけでなく複数のサインが見られる場合は、早めに対策を検討しましょう。
見守りサービスの種類と選び方

離れて暮らす親を見守る方法として、さまざまなサービスが提供されています。親の状況やニーズに合わせて選択しましょう。
主な見守りサービスの種類
人による見守りサービス
- 訪問型
スタッフが定期的に自宅を訪問し、安否確認や話し相手になる - 配食サービス
お弁当の配達時に対面で安否確認 - 電話型
オペレーターが定期的に電話をかけて様子を確認
メリット:直接顔を見て確認できる、コミュニケーションが取れる
デメリット:費用が比較的高い、プライバシーへの配慮が必要
センサー・機器による見守り
- 人感センサー
室内の動きを検知し、一定時間動きがないと通知 - 電気・水道使用量モニター
生活リズムを把握 - 温湿度センサー
熱中症リスクなどを検知 - ドア開閉センサー
外出・帰宅を確認
メリット: 24時間見守りが可能、プライバシーを守りやすい
デメリット: 異変の詳細がわからない、機器の設置が必要
緊急通報システム
- ペンダント型
首から下げて、緊急時にボタンを押すと通報 - 据置型
自宅に設置し、ボタン一つで通報センターにつながる - スマートウォッチ型
転倒検知機能付き
メリット: 緊急時に迅速な対応が可能
デメリット: 本人が操作できない場合は機能しない
カメラによる見守り
- ネットワークカメラ: スマートフォンから映像確認
- 会話機能付き: 離れた場所から声をかけられる
メリット: リアルタイムで状況確認、録画機能
デメリット: プライバシーの問題、親が嫌がる可能性
サービスの選び方のポイント
- 親の状態・自立度
健康な親と、介護が必要な親では必要なサービスが異なります - 親の意向
本人が受け入れられるものを選ぶことが重要 - 費用
月額費用と初期費用を確認し、継続可能な範囲で - 緊急時の対応
異常を検知した後の対応体制を確認 - 複数サービスの組み合わせ
一つに頼らず、複数を組み合わせることも効果的
地域包括支援センターや自治体の高齢者支援窓口で相談すると、地域の実情に合ったサービスを紹介してもらえます。
IoT・テクノロジーを活用した見守り

近年、テクノロジーの進化により、より手軽で効果的な見守りが可能になっています。
代表的なIoT見守り機器
- スマート電球・コンセント
照明やコンセントの使用状況から生活リズムを把握できます。普段使っている電球を交換するだけで導入でき、親の抵抗感も少ないのが特徴です。 - スマートスピーカー
Amazon EchoやGoogle Nestなどのスマートスピーカーを活用すれば、音声で通話したり、服薬時間のリマインダーを設定したりできます。 - 見守りポット
電気ポットの使用状況が家族のスマートフォンに通知されるサービスです。日本人の習慣に合わせた見守り方法として人気があります。 - GPS端末
認知症の症状がある場合、徘徊対策としてGPS端末を靴や杖に取り付けることで居場所を把握できます。
IoT活用のメリットと注意点
メリット
- 日常生活を妨げない自然な見守りが可能
- 遠方からでもリアルタイムで状況把握
- データの蓄積により、生活パターンの変化に気づきやすい
- 複数の家族で情報共有が容易
注意点
- 機器の設置や設定に抵抗がある高齢者も
- インターネット環境が必要な場合が多い
- 電池切れや故障への対応が必要
- プライバシーへの配慮
テクノロジーは便利ですが、それだけに頼らず、定期的な電話や訪問と組み合わせることが大切です。
地域の支援体制を知る―民生委員や地域包括支援センター

家族だけで親を見守るのは限界があります。地域の支援体制を積極的に活用しましょう。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、高齢者の生活を総合的に支援する公的機関です。各市町村に設置されており、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が配置されています。
主なサービス
- 介護や健康に関する相談
- 介護予防プログラムの提供
- 権利擁護(成年後見制度など)
- 地域の医療・介護サービスとの連携
一人暮らしの親が心配な場合、まず地域包括支援センターに相談することをお勧めします。専門職が自宅を訪問し、状況を把握した上で適切なサービスを提案してくれます。
民生委員・児童委員
民生委員は、地域住民のボランティアとして厚生労働大臣から委嘱され、地域の高齢者や子育て家庭を見守る役割を担っています。
活動内容
- 定期的な訪問や声かけ
- 地域の情報提供
- 福祉サービスへの橋渡し
- 緊急時の連絡役
民生委員は守秘義務を負っており、相談内容が外部に漏れる心配はありません。地域に住む顔見知りの存在として、親にとっても安心感があります。
その他の地域資源
- 社会福祉協議会
各市町村にあり、地域福祉の推進役として様々なサービスを提供しています。 - 配食サービス
自治体や民間事業者が提供する食事宅配サービスで、安否確認も兼ねています。 - 地域のサロン活動
公民館などで行われる交流の場。孤立防止に効果的です。 - 買い物支援サービス
移動販売や買い物代行など、外出が困難な高齢者を支援します。
これらの情報は、市町村の高齢福祉課や地域包括支援センターで教えてもらえます。
定期的な帰省・連絡で心の健康も見守る

身体的な安全確認だけでなく、精神的な健康を保つことも重要です。
定期的な連絡の重要性
週に1〜2回程度の電話やビデオ通話は、親の孤独感を軽減し、異変の早期発見にもつながります。
効果的な連絡のコツ
- 決まった曜日・時間に連絡すると習慣化しやすい
- 一方的な確認ではなく、親の話をよく聞く
- 近況報告や孫の様子など、楽しい話題を共有
- ビデオ通話で表情や背景も確認
帰省時にできること
年に数回の帰省時は、普段できないことを集中的に行いましょう。
健康チェック
- 一緒に病院受診に付き添う
- 薬の管理状況を確認
- 体重測定や血圧測定
生活環境の整備
- 家の中の安全確認(段差、照明、滑りやすい場所など)
- 不用品の整理
- 家電の動作確認
地域とのつながり作り
- 地域包括支援センターへの同行
- 近所の方への挨拶と連絡先交換
- 地域のサロンなどへの参加を促す
きょうだい間での役割分担
複数の子どもがいる場合、見守りの役割を分担することで負担を軽減できます。
- 日常的な連絡担当
- 帰省担当
- 経済面のサポート担当
- 情報収集担当
定期的に家族会議を開き、親の状況や今後の方針について共有することが大切です。
緊急時の対応準備―もしもの時のアクションプラン

万が一の事態に備えて、事前に準備しておくべきことがあります。
緊急連絡体制の構築
連絡先リストの作成と共有
以下の情報を家族で共有し、親の自宅にも掲示しておきましょう。
- かかりつけ医・病院の連絡先
- 地域包括支援センターの連絡先
- 民生委員の連絡先
- 親しい近所の方の連絡先
- 家族・親族の連絡先
- 介護保険証・健康保険証の保管場所
医療・介護情報の整理
緊急搬送時にスムーズに対応できるよう、以下の情報をまとめておきます。
- 持病・既往歴
- 服薬中の薬(お薬手帳のコピー)
- アレルギー情報
- かかりつけ医の情報
- 介護保険の要介護度
- 本人の医療に関する意向
鍵の管理
親が倒れて家の中で動けない場合に備え、合鍵を信頼できる近隣の方や管理会社に預けておくことも検討しましょう。
金銭管理の準備
認知機能が低下した場合に備えて、以下を検討します。
- 金融機関の情報整理
- 代理人カードの作成
- 成年後見制度の理解と準備
- 任意後見契約の検討
シミュレーションの実施
家族で「もしも」のシナリオを話し合い、それぞれの役割を決めておくと、実際の緊急時に冷静に対応できます。
よくある質問Q&A
Q1. 親が見守りサービスを嫌がります。どう説得すればいいですか?
A. まずは親の気持ちを理解することが大切です。「監視されている」と感じたり、「自分はまだ大丈夫」というプライドがあったりします。以下の方法を試してみてください。
- 「心配だから」ではなく「お互いに安心したい」という伝え方をする
- 最も抵抗の少ないサービス(電気ポットの見守りなど)から始める
- 試用期間を設けて、嫌なら中止すると伝える
- 同じサービスを使っている知人の例を紹介する
無理に導入すると親子関係が悪化することもあるので、時間をかけて話し合いましょう。
Q2. 見守りサービスの費用はどのくらいかかりますか?
A. サービスによって大きく異なります。
- センサー型見守り:月額3,000〜5,000円程度
- 訪問型見守り:月額5,000〜15,000円程度
- 緊急通報システム:月額2,000〜4,000円程度
- 配食サービス:1食500〜800円程度
自治体によっては、一人暮らし高齢者向けの助成制度がある場合もあります。地域包括支援センターで情報を確認してください。
Q3. 親が認知症かもしれません。どこに相談すればいいですか?
A. まずは地域包括支援センターに相談しましょう。専門職が状況を確認し、必要に応じて医療機関の受診を勧めてくれます。
かかりつけ医がいる場合は、そこで相談するのもよいでしょう。必要に応じて専門医(認知症専門医、神経内科、精神科など)を紹介してもらえます。
早期発見・早期対応が重要です。認知症と診断されても、適切な治療とケアで進行を遅らせることができます。
Q4. 遠方に住んでいて頻繁に帰省できません。どうすればいいですか?
A. 物理的な距離がある場合こそ、テクノロジーと地域資源の活用が重要です。
- 見守りサービスやIoT機器を導入
- 地域包括支援センターに相談し、定期的な訪問を依頼
- 民生委員に見守りをお願いする
- 配食サービスなど、対面確認のあるサービスを利用
- ビデオ通話で週に数回連絡を取る
- 近くに住む親戚や友人に協力を依頼
完璧を目指さず、できることから始めましょう。
Q5. 親がフレイル(虚弱)になっているようです。予防法はありますか?
A. フレイルは適切な対応で改善可能です。
栄養面
- 3食しっかり食べる(特にタンパク質)
- 配食サービスの利用も検討
運動面
- 散歩や体操など、無理のない運動を習慣化
- 地域の体操教室への参加
社会参加
- 地域のサロンや趣味の集まりに参加
- ボランティア活動
地域包括支援センターでは、介護予防教室なども開催しています。積極的に参加を促しましょう。
まとめ

一人暮らしの親を離れた場所から見守ることは、多くの人が直面する課題です。しかし、適切な知識と準備、そして地域資源の活用により、親の安全を守りながら自立した生活を支えることができます。
本記事のポイント
- 早期発見が重要
親の変化に気づくためのチェックポイントを把握し、定期的に確認しましょう - 適切なサービス選び
親の状態や意向に合わせて、見守りサービスやIoT機器を選択・組み合わせましょう - 地域資源の活用
地域包括支援センターや民生委員など、公的な支援体制を積極的に利用しましょう - 心の健康も大切
定期的な連絡や帰省で、孤独感を軽減し精神的な健康も支えましょう - 緊急時の備え
もしもの時に慌てないよう、連絡体制や情報整理を事前に行いましょう
見守りの方法に「正解」はありません。親の性格や生活スタイル、家族の状況に応じて、最適な方法を見つけることが大切です。
また、一人で抱え込まず、きょうだいや親戚、そして専門家に相談しながら進めましょう。地域包括支援センターは、どんな些細な相談でも受け付けています。 親が住み慣れた地域で、安心して自分らしく暮らし続けられるよう、離れていても見守り、支えることができます。できることから一歩ずつ始めていきましょう。




